こちらの記事では、漫画『数学ゴールデン』の第2巻第6話に登場する、多項式の問題の解説をします。
それは次の問題です:
問題
多項式 $(x+1)^3(x+2)^3(x+3)^3$ における $x^k$ の係数を $a_k$ とおく.
このとき $a_2+a_4+a_6+a_8$ の値を求めよ.
作中では、この問題への異なる3種類の解法が登場します。
それぞれ、「がむしゃら展開」「定石」「最速アプローチ」として紹介されています。
最初「がむしゃら展開」を試みる主人公・小野田春一が、途中で先入観を捨て「最速アプローチ」に切り替えていく様が、成長シーンとして描かれています^^
それぞれのアプローチに対する詳細な計算は作中には描かれていません。
そこで、解法の名称と扱われ方から、私なりに解法の細部を予想してそれを補ったものをご紹介したいと思います。
がむしゃら展開
最初の解法は「がむしゃら展開」です。
名称から察するに,純粋に展開して係数の和をとるという,誰でも思いつくオーソドックスな解法だと思われます。
展開すると係数に4桁の数をもつ9次式が登場するので計算はややハードです^^;
作品の中では,主人公が最初に飛びつく「悪手」として描かれていて,何度検算しても違う答えになるというピンチに陥ってしまいます。
それでは実際に展開してみましょう:
\begin{align*}
&(x+1)^3(x+2)^3(x+3)^3\\
&\quad =(x^3+3x^2+3x+1)(x^3+6x^2+12x+8)(x^3+9x^2+27x+27)\\
&\quad =(x^6+6x^5+12x^4+8x^3+3x^5+18x^4+36x^3+24x^2\\
&\qquad\quad +3x^4+18x^3+36x^2+24x+x^3+6x^2+12x+8)(x^3+9x^2+27x+27)\\
&\quad =(x^6+9x^5+33x^4+63x^3+66x^2+36x+8)(x^3+9x^2+27x+27)\\
&\quad =x^9+9x^8+27x^7+27x^6+9x^8+81x^7+243x^6+243x^5\\
&\qquad\quad +33x^7+297x^6+891x^5+891x^4+63x^6+567x^5+1701x^4+1701x^3\\
&\qquad\quad\quad\quad +66x^5+594x^4+1782x^3+1782x^2+36x^4+324x^3+972x^2+972x\\
&\qquad\quad\quad\quad\quad\quad +8x^3+72x^2+216x+216\\
&\quad =x^9+18x^8+141x^7+630x^6+1767x^5+3222x^4+3815x^3+2826x^2+1188x+216
\end{align*}
より,
\[ a_8=18,\quad a_6=630,\quad a_4=3222,\quad a_2=2826 \]
なので,
\[ a_2+a_4+a_6+a_8=6696\quad\cdots(\text{答}) \]
となります。
私も計算してみましたが,慎重に計算しても20分もかからないくらいでした^^;
これで正解が得られるならこの解法「アリ」じゃないかな…^^
…というか、計算力不足じゃないか!?春一く~ん!!^^;
定石(二項定理)
3つの解法の中で一番悩ましいのが「二項定理の応用」です。
私の二項定理の使い方が悪いのか,普通に展開するのに比べて楽になっている気がしないのです^^;
これからご紹介する解法より上手い二項定理の使い方を思いついた方は,是非コメント欄などを通じてご教示いただけますと幸いです^^
まず私は,3乗を後回しにしました:
\begin{align*}
(x+1)^3(x+2)^3(x+3)^3&=\{(x+1)(x+2)(x+3)\}^3\\
&=(x^3+6x^2+11x+6)^3
\end{align*}
ここで,二項定理(正確には多項定理)を使うと,
$x^8$ の項は,
\begin{align*}
\dfrac{3!}{2!1!}(x^3)^2\cdot 6x^2=18x^8
\end{align*}
より,$a_8=18$ となります。
$x^6$ の項は,
\begin{align*}
&\dfrac{3!}{2!1!}(x^3)^2\cdot 6+\dfrac{3!}{1!1!1!}x^3\cdot 6x^2\cdot 11x+\dfrac{3!}{3!}(6x^2)^3\\[2pt]
&=18x^6+396x^6+216x^6=630x^6
\end{align*}
より,$a_6=630$ となります。
$x^4$ の項は,
\begin{align*}
&\dfrac{3!}{1!1!1!}(x^3)\cdot 11x\cdot 6+\dfrac{3!}{2!1!}(6x^2)^2\cdot 6+\dfrac{3!}{1!2!}6x^2\cdot(11x)^2\\[2pt]
&=396x^4+648x^4+2178x^4=3222x^4
\end{align*}
より,$a_4=3222$ となります。
$x^2$ の項は,
\begin{align*}
\dfrac{3!}{1!2!}6x^2\cdot 6^2+\dfrac{3!}{2!1!}(11x)^2\cdot 6=648x^2+2178x^2=2826x^2
\end{align*}
より,$a_2=2826$ となります。
以上により,
\[ a_2+a_4+a_6+a_8=6696\quad\cdots(\text{答}) \]
となります。
このように,多項定理を利用しても正解が得られますが,普通に展開した方が楽に感じるのは私だけでしょうか…^^;
最速アプローチ
最後に「最速アプローチ」として登場する「恒等式的解法」をご紹介しましょう。…と言っても名前から予想した解法ですが^^;
\begin{align*}
f(x)&=(x+1)^3(x+2)^3(x+3)^3\\
&=a_9x^9+a_8x^8+a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x+a_0
\end{align*}
とおきます。このとき,
\begin{align*}
f(1)&=a_0+a_1+a_2+a_3+a_4+a_5+a_6+a_7+a_8+a_9=2^3\times3^3\times4^3=13824\\
f(-1)&=a_0-a_1+a_2-a_3+a_4-a_5+a_6-a_7+a_8-a_9=0\\
f(0)&=a_0=1^3\times 2^3\times 3^3=216
\end{align*}
より,
\[ f(1)+f(-1)-2f(0)=2(a_2+a_4+a_6+a_8)=13392 \]
なので,
\[ a_2+a_4+a_6+a_8=6696\quad\cdots(\text{答}) \]
を得ます。
明らかに,3つの解法の中ではコレが一番楽でしたね^^!
おわりに
以上、3通りの解法をご紹介しました。
『数学ゴールデン』のファンで、ストーリーだけでなく数学の部分も楽しみたい!という方の参考に少しでもなれば幸いです^^
この問題の他にも、本編で登場した問題の解説をいろいろ書いております。
第2巻第5話に登場した「筧十三スペシャル宿題」は次の記事で解説しております:
第1巻の問題も解説しておりますので、是非関連記事などからご覧ください!
本業が忙しく、なかなかブログ更新ができません^^;
そうこうするうちに第3巻が発売してしまいました~
第3巻も、新キャラあり、難問ありで読み応え満点でした!
まだ第2巻の問題もすべて記事にできていませんが、第3巻の問題もおいおい記事にしていきたいと思います^^
それでは、次の問題でお会いしましょう!!
『数学ゴールデン』をまだ読んだことがない方はどうぞ↓
すべての数学好きの方にオススメですっ!!